まずはご自身が慢性疲労症候群(以下CFS)でありながら、否だからこそ、この長編ドキュメンタリーを作り上げたキム・スナイダー監督、日本語字幕作成に尽力された同じくCFSの篠原三恵子様、協力者の有原誠治様に深い敬意を表します。
さて、映画ですが、CFSを患っている自分自身にとってもかなりショッキングな内容でした。日本では当然のこと、アメリカ合衆国でも当初おざなりな調査しかされずマスヒステリアや詐病、精神疾患、多発性硬化症等々と誤解されていた事には驚きを禁じ得ませんでした。医師と言う職業柄、CDCやFDAといった組織の、日本よりはるかに優れた疾患に対する迅速的確な対応を信じておりましたので余計にショックが大きかったのかもしれません。
個々のCFSの方たちの思いにも当然ながら深く共感するところが多々ありました。特に殆どの方が当初「Flu」だと信じて疑わなかった事も私自身の経験と重なるものでその都度首肯しておりました。また自殺した女性の「生きたい、健康になりたい、けれど今の自分は死ぬしか道はない」という肉声には心が震えました。ミシェル・エイカーズの「自殺したいと思った事はなかった。でも死ぬしかないのかなとは思っていた。」という言葉も自身の思いと重なり、胸が痛みました。
そして何より、このままでは納得できない、何が何でも原因を特定してみせる、というキム・スナイダーさんの強い意思に圧倒されました。私自身この3年間なったものは仕方ない、もうなるようにしかならないしCFSの患者が連帯する力を持っているわけも無い、と思い続けてきました。そして今回ちょっとしたきっかけでこの病気と向かい合えるだけ向かい合ってみようと思った時にこのDVDと出会えたことはこの上ない僥倖であったと思います。本当にありがとうございました。
「全く健康だった頃の自分自身を思い出せない」
という点なので、この題名については少し複雑な思いを抱きました。
そして敢えてこのフィルムの瑕疵をあげるとすれば(これは私の映画マニアの「さが」だと笑い飛ばしていただいて結構ですが)
1: 構成が複雑かつランダムなところがあり、一般の人にCFSを理解させると言う点では合格点をつけられない
2: viral infection説を強調し過ぎているきらいがあり、伝染する病気と言う偏見を持たれかねない
3: (私自身が医療者側にいる人間なので)当初は分けの分からなかった病気を扱わされる側の苦労もよく分かるので、無理解な医師を一方的に責めるのも酷である
といったところです。
最後になりますが、CFSから回復したキース・ジャレットのインタビューが無いのが寂しいと思っていましたが、エンドロールで彼に対する謝辞が述べられているのを見て、彼のこの映画に対する支援を本当に嬉しく思いました。また、彼とクラシック界の鬼才ギドン・クレーメルが共演した現代音楽家アルヴォ・ペルトの作品「Fratres」が映画中で使用されている事にも深い感銘を受けました。これは私の愛聴盤「Tabula Rasa」(ECM)に収録されており、今朝はこれを聴きながら感想を書いています。
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なお、キース・ジャレットはCFSから復活しての二作「Melody at night, with you」「Jasmine」(いずれもECM)で、全世界のCFS患者を励ましていると感じています。そのあたりの感想は下記ブログに書いた事があります。ご笑覧ください。
http://bit.ly/bjhaIZ
最後に9月2日の会の成功を祈念しております。またの機会があれば是非とも参加させていただきたいと思います。
平成22年8月29日 ゆうけい 拝